高年齢者雇用安定法の背景については前ページでお話しいたしましたので、ここではこの法律の具体的な中身を確認していきす。

例題

では法律の具体的な中身を以下の例題の沿ってみていきましょう。1級の過去問ですが、順を追って説明しますので2級、3級を受検する人も心配はいりません。【以下、みどり色文字は2018年1月28日実施の金財1級FP学科試験〈基礎編〉の引用です。】

《問8》 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。

1)65歳未満の定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「当該定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「当該定年の定めの廃止」のいずれかを講じなければならないとされている。

正しい記述です。

企業の課せられる3つの選択肢

この3つが定年65歳未満の企業に示された選択肢です。例えば60歳定年としている会社であれば必ず次のいずれかをしなければなりません。

    1. 単純に65歳まで定年の年齢を引き上げる。
    2. 定年の規定を変えないのであれば、60歳になっても従業員本人が希望すれば60歳以降も継続して働ける制度を設ける。
    3. 定年制そのものを廃止して本人が希望する限り何歳でも働けるようにする。

年金制度が変わり、それによってできた隙間を埋めるべくできたのがこの法律「高年齢者雇用安定法」なのですが、企業側に定年に関する社内規定の改正などの負担を求めるものでもあるのです。そのため、企業に対し一定の配慮も必要になってきます。

上記の3点は基本的原則ですが、上記2.はある程度の幅を持たせる負担軽減も図られています。

2)事業主が新たに継続雇用制度を導入する場合、原則として希望者全員を対象とするものにしなければならないが、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢以上の者について定めることが可能とされている。

誤りです。

次は3つの原則の2.の「継続雇用制度」の細かい部分です。多くの企業が実際に選択しているのもこの「継続雇用制度」です。

継続雇用制度のとは

60歳以降も雇用を継続するか、一旦退職した上で条件を見直すなど、仕切り直しをして再度雇用する形態です。

「希望者全員」というのが現行制度では原則です。「労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する」ということも認められていませんので、文後半が間違いということになります。

ただし、一部例外があります。平成25年4月以前はこれが認められていたため、移行措置として25年4月以前から「労使協定による対象者限定」の規約があった企業に限って、時限的に認めています。ただし対象は特別支給の老齢厚生年金(65歳未満の報酬比例部分)がもらえる65歳までの人だけです。

特別支給の老齢厚生年金の支給年齢は徐々に引き上げられていますので完全に65歳に移行された時点でこの例外措置は終了します。

3)継続雇用制度には、事業主が、子法人などの特殊関係事業主との間で、「継続雇用制度の対象となる高年齢者を定年後に特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約」を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれる。

正しい記述です。平成25年4月の制度改正からこのようになりました。企業側に対する配慮です。

4)高年齢者雇用確保措置が講じられていない企業が、高年齢者雇用確保措置の実施に関する勧告を受けたにもかかわらず、これに従わなかった場合、厚生労働大臣はその旨を公表することができるとされている。

正しい記述です。3)同様で25年の制度改正で施行された事項です。

まとめ

年金の支給年齢を65歳に引き上げた結果、世間一般の60歳定年とズレる結果となりました。高年齢者雇用安定法は、この5年間のズレによる年金の空白期間を作らないようにするための政策ではあるのですが、現実はそう甘くありません。「継続雇用制度」は60歳時点と同じ給料がもらえる制度ではありません。継続して働くことを希望しても大半の人は大幅な給与ダウンで、6割程度の会社が多いようです。