離婚したときに夫(配偶者)の年金を「分ける」という制度は最近までありませんでした。今では多くの人が漠然とではあっても「分割ができる」ということを知っています。

ただし、実際に離婚した人や離婚を考えている人以外は、あまり詳しい内容までは知らないのではないのではないでしょうか。単純に「2」で割るという単純なものではありませんので注意が必要です。

最初に分割の制度ができたのは2007年です。

本来(建前の上では)、年金は個人名義で掛けているもので、その権利を人に譲渡することはできません。夫婦といえども財産権においては「他人」ですから同様です。

しかし、年金の世界は「現実主義」「実態重視」です。制度上は確かに他人同士の夫婦ではありますが、厳密に財布を分けているわけではありませんし、家庭においては役割分担が普通になされています。夫がサラリーマンで妻が専業主婦の家庭であれば、夫は外で稼ぎ妻は家事や子育てに専念するという形態はごく当たり前のすがたです。

この場合夫だけが厚生年金保険料を払い妻は年金保険料を納めなくても国民年金の第3号被保険者となります。

ともに助け合い生きてきた2人ですがもらえる老齢年金は同じではありません。老齢基礎年金は同じですが夫にだけは老齢厚生年金(報酬比例部分)が上乗せされます。

離婚せずにそのまま生活を続けていれば何も問題がないのですが、離婚してそれぞれが自分の年金で暮らさないといけなくなったとき困ったことになります。

他の財産同様、年金も夫婦で協力して築いてきた「財産」だと考えれば、たとえ離婚しても、妻にはその年金の半分は権利を主張することができると考えて当然でしょう。

2007年まで、分割の制度が全くなかったというのは現在の感覚からは違和感があります。「離婚という個人的事情に制度が追随する必要はない。離婚するものが悪い」というのがひと昔前の世間一般の感覚だったのかもしれません。世の中の意識や常識が時代とともに変わってきたのでしょう。

ここからはその年金分割の具体的な内容に触れていきます。以下はFP1級の過去問ですが、順を追って説明しますので2級、3級を目指している人、試験に関心のない人も心配はいりません。【以下、みどり色文字は2018年1月28日実施の金財1級FP学科試験〈基礎編〉の引用です。】

《問4》 厚生年金保険法における離婚時の年金分割に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。なお、本問においては、「離婚等をした場合における特例」による標準報酬の改定を合意分割といい、「被扶養配偶者である期間についての特例」による標準報酬の改定を3号分割という。

問題文の中で「合意分割」「3号分割」という2種類の分割方法の説明が書かれています。しかし、わざわざ説明してくれている割にはさっぱり分からず余計に難しくしている印象です。

親切に説明してくれているのかと思いきや、実は難しく見えるように撹乱してるようにですね。試験問題ですからそのような意図は充分に考えられます。

本題に取り掛かる前にこの部分だけ先に理解しておきましょう。「〇〇特例」というのは法令の正式名称ですが、「合意分割」「3号分割」という呼び方の方が一般的です。

「標準報酬の改定」というあまり耳に馴染まない言葉が出てきますがこちらの意味を理解する方が大切です。

年金分割と言っても、離婚した瞬間、話がついた瞬間にもらえるわけではありません。年金ですから最低でも60歳にならないと支給はされません。

この続きは次回(離婚時の年金分割(2)~標準報酬の改定とは)へ・・・