・・・前回(公的年金制度の遺族給付(1))からのつづきです。

 

公的年金制度とは厚生年金と国民年金のことです。公務員や会社勤めの人が入るのが「厚生年金」、個人事業主は「国民年金」。厚生年金は国民年金よりも手厚い上乗せがある。先ずはそんな区別でとらえていただければ大丈夫です。

2つは別々の制度ですがところどころ絡まりあっています。厚生年金や国民年金をかけていた人が亡くなったとき、遺族にどのように給付されるのか。以下の過去問で具体的な例を見ていきましょう。

1級の過去問ですが、順を追って説明しますので2級、3級を目指している人も心配はいりません。

【以下、みどり色文字は2018年1月28日実施の金財1級FP学科試験〈基礎編〉の引用です。】

《問3》 公的年金制度の遺族給付に関する次の記述のうち、最も適切なものはどれか。なお、記載のない事項については考慮しないものとする。

1)厚生年金保険の被保険者であり、その被保険者期間が192月である夫(38歳)が死亡し、その夫に生計を維持されていた遺族が妻(42歳)のみである場合、その妻が受給する遺族厚生年金には中高齢寡婦加算額が加算される。

正しい記述です。

老後に支給される年金(老齢年金)は、厚生年金の場合も国民年金の場合も掛けた月数によってもらえる金額が変わります。基本的には長い期間かけた人のほうがたくさんもらえます。

ただし、最低でも10年かけていないと老齢年金をもらう資格が得られせん。掛けた年数が10年未満であれば「資格不十分」で1円ももらえないのです。

しかし被保険者が死亡したときに遺族に支給される「遺族年金」は、加入期間が10年未満であっても25年(300ヶ月)掛けたものとして計算してもらえます。生命保険の死亡保険金のような考え方です。

さて、上記例題では、38歳の夫が死亡したとき、その加入期間は192ヶ月(16年間)ということですから、300ヶ月加入していたものとして扱われます。

次に「夫に生計を維持されていた遺族が妻(42歳)のみ」ということですから子どもはいないか独立したかでしょう。夫は厚生年金でしたので妻は遺族厚生年金を受けることができます。

※これがもし国民年金であれば妻は遺族年金をもらえません。なぜならば遺族基礎年金(国民年金被保険者の遺族年金)がもらえるのは「子のある配偶者または子」に限られているからです。

例題に戻ります。

最後に出てきたのが「中高齢寡婦加算」です。

中高齢寡婦加算とは40歳〜65歳の妻に加算される遺族年金です。何に加算されるかと言えば「遺族厚生年金」に加算されます。では、厚生年金に加入していた妻が死亡した場合、妻に先立たれた夫は同じように「中高齢寡夫加算」というものがあるのかというと、それは「ない」のです。

男の場合は加算がないどころか、遺族厚生年金そのものですら55歳以上でなければ受け取ることができません。年額にして約58万円ありますから結構大きな額です。男女平等の観点から考えるとおかしな制度だと思うかもしれません。そこにはどのような意図があるのでしょうか。

一般的にこの年代の妻は子育てが一段落します。子供たちが高校を卒業してしまうと遺族基礎年金は打ち切られます。このことによる収入ダウン補うために新たに仕事を探したり収入を増やすことは一般的には困難だと考えられます。

そこで救済策として用意されているのが「中高齢寡夫加算」です。妻自身の老齢年金がもらえる65歳までの「架け橋」のようなものです。もともと子どものいない妻でも亡き夫同等の収入を得る仕事につくことは困難です。

それに対して男性の場合はずっと仕事を継続してきているので収入は落ちないというのがこの制度ができた根拠ではないでしょうか。

法の下での男女平等というのはある意味「理想」であり「建前」であって「現実」はそうではない、というのが年金の世界の考え方です。

年金の「現実重視」は他にも見受けられます。

たとえば、法律上の婚姻関係にない「内縁」や「事実婚」でも年金はもらえるケースがあります。これが相続であれば絶対に認められません。

最後に、付け加えとして。

受給資格10年というボーダーラインはつい最近(平成29年7月)まで25年でした。遺族年金の「300ヶ月(25年)みなし」はこのなごりです。

国民年金の納付率をあげるために法改正がなされました。老齢年金は保険料を納めた期間に比例してもらえる金額が決まるので10年だと40年納めた人の4分の1しかもらえませんが、「0」ではないので諦めずに払ってほしいということだと思います。

このつづき次回(公的年金制度の遺族給付(3))へ・・・